JOURNAL

『バズる』ことを狙わずに続けられるものづくりについて

個人でWebサービスやアプリを作っている人なら誰しも、「SNSで何千何万とリツイートされて大バズりし、アクセス数のグラフが垂直に跳ね上がる瞬間」を一度は夢見たことがあるのではないでしょうか。正直に白状すると、私自身もかつてはそんな景色に憧れを抱いていた時期がありました。

しかし、赤猫座の道具店を開店し、たくさんの小さなWeb道具を作り・磨き・並べ続ける中で、「『バズること』を狙ったものづくりは、個人開発において最も寿命を縮める危険な罠だ」と痛感するようになりました。

今回は、なぜ当店が「バズ狙い」を完全に捨て去り、「毎日ポツポツと静かに使われ続ける道具」を目指すようになったのか。個人開発を息切れせずに長く楽しく続けるための、持続可能なものづくりの哲学についてお話しします。

この記事の要点

SNSの瞬間最大風速(バズ)を狙う開発は、一過性の注目と引き換えに開発者の精神とリソースをすり減らします。「自分が一番のユーザーになる」「ストック型の検索需要に寄り添う」「運用コストを極限まで下げる」という、燃え尽きないための3大原則をまとめました。

1. 「バズ狙いのものづくり」に潜む3つの罠

「話題性」や「拡散力」を最優先にしてアプリやツールを企画し始めると、開発者の心には以下のような3つの歪みが生じます。

① 実用性よりも「一発芸(ネタ)」に意識が奪われる

「使って本当に便利か」よりも「SNSでタイムラインに流れてきたときにクスッと笑えるか」「スクショ映えするか」ばかりを考えるようになります。その結果、完成したときは話題になっても、1回触ったら二度と誰も使わない「一発屋のオモチャ」になりがちです。

② 反響がなかったときの精神的ダメージ(バーンアウト)

休日を何週間も返上して寝る間も惜しんでコードを書いたのに、いざ公開したツイートの反応が「2いいね」だったときの虚無感と絶望感。バズを期待値の基準にしてしまうと、個人開発そのものが嫌になって開発をやめてしまう最大の原因になります。

③ 祭りの後の静寂と、残された過剰なインフラ

万が一バズったとしても、SNSの熱狂は長くて3日、普通は半日で急速に冷え込みます。瞬間的なアクセス急増のためにサーバーのスペックを上げたり複雑なクラウド構成を組んでいた場合、熱が引いた後に残るのは毎月の高額な請求書と虚しさだけです。

「SNSのバズは、激しく燃え上がって一瞬で灰になる花火のようなもの。
道具屋が目指すべきは、暗闇の中で何年でも静かに灯り続ける小さなランタンです。」

2. 目指すべきは「検索から毎日30人が静かに訪れる道具」

SNSのタイムラインは情報の「激流(フロー)」です。どんなに絶賛された投稿も、数日経てばタイムラインの底へと沈み、誰の目にも触れなくなります。

一方で、検索エンジンから訪れるユーザーの行動は「切実な課題解決(ストック)」です。

「文字数を今すぐ数えたい」「CSSのclamp関数の計算が面倒」「正規表現の挙動をちょっと確かめたい」——。こうした日常の些細な困りごとは、10年前も今日も、そして10年後も世界中の誰かが必ず検索窓に打ち込み続けます。

派手な拡散は一切なくても、毎日30人、50人の人が検索からふらっとやってきて、パッと作業を片付けて「助かった」と静かに帰っていく。この**「ポツポツとした安定した日常利用」の積み重ね**こそが、Webサイトとして最も頑丈で、作り手としても一番嬉しいあり方です。

3. 比較表:バズ狙いの一発芸型開発 vs 日常使いの道具型開発

比較項目 🐱 日常使いの道具型(赤猫座) 🎆 バズ狙いの一発芸型
開発の動機 自分や誰かの「日々の不便」の解消 SNSでの拡散・承認欲求・認知獲得
ツールの寿命 数年〜10年以上使われ続ける(長寿命) 数日〜数週間で忘れ去られる(短命)
主な流入経路 Google検索・ブックマーク(安定) SNSのタイムライン(激しい乱高下)
開発者のメンタル マイペースで穏やか(燃え尽きない) 「伸びない」ことへの焦りとストレス
サーバーコスト 低コスト・固定費で予測可能 スパイク対応で過剰構成になりがち

4. 個人開発を10年続けるための「3つのマインドセット」

赤猫座の道具店が、誰に急かされることもなく、楽しさを保ったまま道具を増やし続けられている背景には、3つのルールがあります。

① 「自分自身が毎日使う一番の客」になる

「世界中の誰かにウケるか」を考える前に、「自分が作業中に欲しいか」を基準に作ります。最初のユーザーが自分であれば、たとえ世の中で誰一人使ってくれなかったとしても、「自分が便利になった」というだけで開発の投資対効果は100%回収できます。

② 運用コストを極限まで低く抑える

月数万円もかかるサーバーや従量課金の高価なAPIを無邪気に使わないこと。当サイトのように、自前のDocker環境やApacheの上で複数の道具を同居させ、月々の固定費を最小限に抑えておけば、「アクセスが少なくても赤字にならない=何年でも店を開けておける」という無敵の持続可能性が手に入ります。

③ 届いた一通のお便りを何よりも大切にする

SNSの1,000リツイートよりも、お問い合わせフォームから届く「仕事で毎日重宝しています」「この機能のおかげで助かりました」というたった1通のメッセージの方が、開発者の心に何百倍もの温かい火を灯してくれます。※セキュリティ優先していてお問い合わせフォーム、少々ご面倒をお掛けしますがお気軽に遅い合わせください。😺

まとめ:街角の路地裏で、細く長く明かりを灯し続ける

インターネットは巨大な商業ビルや派手なテーマパークばかりが目立ちますが、街の片隅の路地裏にある「いつも静かに開いている小さな道具屋」にも、確かな存在価値があると信じています。

バズることを焦らず、誰かの顔色を窺わず、自分が「本当に手元に置きたい」と思える誠実な道具を、ひとつずつ丁寧に棚に並べていく。

赤猫座の道具店はこれからも、無理のないマイペースな足取りで、日々のものづくりを楽しんでまいります。ふと思い出したときに、いつでも気兼ねなく覗きにいらしてください。😸